ハロウィン前の話
うわ、こんな衣装あるんだ。かわいいけど際どいな……。
スマホで、SNSに流れてきたコスプレ衣装を見ながらそんなことを思っていると、
「へえ、良いね。エロい」
後ろからふみやくんが声をかけてきた。
「俺は右の方がいいな」
私のスマホの画面を覗き見ながらそんなことを言ってくる。そうなんだ……。
「名前、興味あるの」
「かわいいなとは思うけど私は着ないかな。似合わないと思うし」
「買わないのか……」
「か、買わない! というかふみやくん、人の画面を覗き見ちゃだめです!」
画面をかばいながら言うと、「ダメ? なんで?」とお決まりの台詞が飛んでくる。
「ああもう! プライバシー!」
「だって、ここで堂々と見てるってことは、見られてもいいってことだよな」
「どういう理屈! 堂々とは見てなかったと思うけどなあ〜?!」
首を傾げる私を「まぁまぁ」といなしながら、ふみやくんは向かいに座って一息つく。
「なあ、ハロウィン、近いだろ。名前は何着るんだ」
「え? 私? うーん……」
反射的に考え込んでしまう。
「って着ること前提になってる! 油断も隙もあったもんじゃないな……」
「着ないのか?」
「うーん。ふみやくんはどうなの?」
「俺は」「うん」
「……秘密」「そっか……」
内心、もしかして着てくれるんじゃないかと期待していたが……でも、秘密、なら着てくれる可能性もあるってことだ。楽しみだな。そう思いながら軽い気持ちで「じゃあ私も秘密!」と言ったら、
「そうか、楽しみにしてる」
そう言って微笑むと、ふみやくんは依央利くんを呼びつけて飲み物を催促していた。
……ん?
「いつの間にか私もなにか着ることになってない? あれ?」
こうして私はハロウィン前に100円均一やパソコンの画面に向かって唸ることになるのだった。
221028 言ったもん勝ち ふみやくんは人のスマホの画面を見てくる。