飲み会の話
今日はカリスマハウスの飲み会の日だ。みんな集まって酒盛りをしよう! という日に、光栄にもテラさんから私もお呼ばれされたのである。
「いいんですかね、私もお呼ばれしちゃって」
「いいの! 前に酒癖の話したでしょ。せっかくだし生で見たくて」
るんるんとテラさんが言う。
「面白いものはお見せできないと思いますが……」
あはは、と申し訳なさに軽く笑いながら返す。
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ガラガラ、と缶が並べられる音にみんなが集まってくる。
「ビールある?」
ふみやくんも嬉しそうに酒缶の山に寄ってくる。
「君はだめ!」
テラさんがそんなふみやくんの首根っこを掴んで阻止している。あともうちょっと我慢しようねふみやくん……。なんだかもう飲んだことはありそうな気がするけど……。
「ブランデーやワインなんかもありますよ。名前さんは何を選ぶのでしょう」
天彦さんが、どうぞ先に選んでくださいねと選ぶ順番を紳士的に譲ってくれる。
「私は……梅酒にしようかな……?」
受け取ったパックの封を開けて、大粒の氷の入った丸グラスに注ぐ。
「素敵です。セクシーな選択です」
天彦さんは何を選んでもそう言ってくれそうな気がする。ありがとうございます、と笑って返しておく。
……自分で注いでいるところを依央利くんに見咎められて、次はこの奴隷に注がせてくださいね! と念押しされてしまった。
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「……というわけで、皆さん、節度を守って楽しみましょう」
「御託はいいからとっとと始めろ〜」
「猿! ……コホン、それではこの秩序のカリスマ、草薙理解が乾杯の音頭を取らせていただきます。皆さ〜ん!」
「「「「乾杯〜!」」」」
依央利くんお手製のごちそうを囲んで、カリスマハウスの酒盛りパーティーが幕を開けた。
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「やってる〜?」
しばらくして、遊びに来てくれたのはテラさん。頬がほんのり赤くてきれいだ。
「あはは、ねむいです〜」
飲み会が楽しくて先程からずっと笑っているのだが、やっぱり眠い。
「あ、言ってた通りだ。もうフニャフニャしてる」
「フニャフニャしてますかねえ」
「してるよ。ね、オバケくん」
「……してると思います。いつもより笑顔で……素敵だと思います」
と、両手で缶を持った大瀬くんがおずおずと加勢してくれる。
「へへ……照れちゃうな」
顔が緩む。ほら、これも食べな〜とテラさんがおかずを差し出してくれるので、お皿を差し出し受け取ってありがたくいただく。こんなに良くしてもらっていいのかな。
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まばたきが多くなる。そろそろ限界かもしれない。
「う〜ん」
気付けば、三角座りで膝に顔をうずめてしまっていた。眠たい。気が付いた皆さんが声をかけてくれているのはわかっているのだが、眠たすぎてどうしても頭を起こす気になれない。
そうしていると突然、腰のあたりと、立たせた膝の下に腕を回されてひょいと軽々持ち上げられる。すぐ近くでいい匂いがする。
「部屋に連れていく。寝るなら部屋の方がいいだろ」
声がすぐ近くで響いてようやく気付く。ふみやくんだったのか。私の身体を支えてくれている腕も胸板もしっかりしていて、男の子だなあと思う。
「なんだ、優しいじゃん。よろしくね〜」
テラさんがひらひらと手を振って見送ってくれた。
私はというとすっかり身体を預けてしまって、心地良さにすり、とふみやくんの肩口に甘えてしまっていた。
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バタン、と扉が閉まると皆の声が一気に遠くなる。
廊下の冷えた空気が心地良い。ふみやくんの足は二階へと向かっていった。
……どこかの部屋の前で揺れが止まる。ふみやくんは私のことを抱き直すと、ガチャ、と扉を片手で開いて体を滑り込ませた。ついでに、後ろ手で鍵を閉めた音がする。部屋は私の知らない匂いがした。
「やっぱりこの前のは正解だったな」
喧騒から離れた静かな部屋に、ぽつりと独り言が落ちる。意味を理解する頭が働かない。数歩の歩みの後、ふみやくんによってゆっくりとベッドに寝かされる。その後、ふみやくん自身もベッドに乗り上げたようだった。二人分の重さにベッドが軋みをあげる。
「こんな簡単に男の部屋に連れ込まれて」
布の擦れる音がする。いい匂いが濃くなる。ふみやくんが近づいてきてくれたみたいだ。
「据え膳って知ってるか、名前」
耳に心地よい低音が届く。何を言っているかは分からなかったが、まぶたが重い。より深く眠れる気がした。
「はは、聞こえちゃいないか」
あ、ふみやくんが笑ってる。嬉しくて私も少し微笑んだ。
バサ、と何かが落ちる音がする。続いてベッドの軋む音。ふみやくんが腕をついたであろうところが沈んで、そちらに体が傾く。
「名前」
すぐ近くでふみやくんの声がする。息遣いも分かるくらいの距離だ。
ゆっくりと唇に柔らかいものが当たって、それは角度を変えて数回軽く触れてきた。ふにふにとした感触が気持ちいい、とぼんやり考えていると、ちゅ、と唇を吸われ、反動ですこしだけ開いた唇の隙間からぬるりとした何かが咥内に入ってくる。混乱している間に、それは我が物顔で私の咥内を蹂躙していく。少しざらついたそれが私の上顎を掠めたとき、ぴり、とした甘い電流が走ったような感覚がした。頭の中いっぱいに水音が響いてぞわぞわする。ひとしきり荒らして満足したのか、また、ちゅ、と軽く音を立てて、気配は離れていった。
「甘い酒の味」
「伊藤ふみやー!!!!!!」
突然、テラさんの声が響き渡り、ガチャガチャと扉が激しく音を立てる。何度も強くノックをする音と共に、聞き慣れた笛の音も鳴り響いている。
「時間切れだな」
呟くと、ふみやくんがベッドから降りる気配がする。扉の鍵を開ける音がすると、勢いよくテラさんたちが部屋になだれ込んできた。
「名前! 起きて!」
「う〜ん、テラさん……」
むにゃむにゃと夢うつつのまま目を開ければ綺麗なテラさんのお顔が目の前いっぱいにあって、ここが天国かな……とまた意識が遠くなった。長い髪がカーテンのようになってとても幻想的だ。
「ちょっと、名前に変なことしてないよね?!」
「……まぁまぁまぁ」
「まぁまぁじゃないっ!」
「セクシーの気配……天彦も呼んでくださればよかったのに……」「というのは冗談で、前後不覚の相手を手籠めにするような真似はセクシーじゃありませんね」扉の木枠に腕をついた天彦さんが落ち着いたトーンで諫めてくれる。
「てっててててて手篭めになんて、そんな、ふしだらな!!! 自分の部屋に女性を連れ込むとは! 断じて見過ごせない! 秩序が! 乱れている!」
理解くんは頭を抱えながら顔を赤くしたり青くしたりと忙しい。
「ったくほっとけよ、」缶のお酒を片手にあおりながら、猿くんが面倒そうに言った。
「……いおくんが待ってます」顔だけひょっこりと出した大瀬くんが少し眠そうに伝えてくれる。
「だって名前の部屋に連れてくのかと思ったらこんなところにいるんだもん」
「名前の部屋は鍵が掛かってたんだよ。鍵の持ち主はこの通りだろ。勝手に探る方が悪いと思って」
「それはそうですが……」
もっともらしい理屈を並べるふみやくん。確かに私には離席するときは部屋に鍵をかける癖がある。そもそも鍵をかけるようになった元々の原因もふみやくんだった気がするが。
「鍵出せる?」
「はい〜」
優しく聞いてくれるテラさんに、むにゃむにゃと懐を探ると鍵が出てくる。
「これで名前の部屋に運べるよね。ほら、運んで運んで」
「ん」
再びふみやくんに持ち上げられて、今度は衆人環視の元私の部屋へと送り届けられる。ベッドに横にされ、ついでに掛け布団も掛けてもらってしまった。
「続きはまた今度な」
去り際、私の目を閉じるように手で目隠しをしてふみやくんは囁いた。
「? ……ありがとう、ふみやくん」
なんだか嬉しい気持ちになって、わけもわからず微笑んで今日のお礼をすると、少しの沈黙の後、ふ、と笑う声が聞こえた。
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パタンと閉じられた扉の向こうは少し騒がしかったが、しばらくすると複数人の遠ざかる足音と共に静かになる。
それをすこし寂しく感じながら、私の意識は溶けるように深い眠りに落ちていった。
221105 そう言いながらも来てくれている猿くんはやっぱり優しいと思います。「ところで」「いいのかよ、アイツに任せて」「……」「「「「よくないかも!!」」」」というやり取りがあったとかなかったとか……。