extra

伊藤ふみや

洋酒チョコの話

「ただいま〜。あれ、今日はふみやくんだけ?」

 カリスマハウスに帰ると、ふみやくん一人がリビングでくつろいでいた。

「いや、皆風呂か部屋にいる」

 とりあえず椅子に鞄を下ろして上着を脱いで肩をマッサージなどする。

 ふみやくんはというと、その間に鞄に入っていたラッピングされた箱を目ざとく見つけて中身を物色しようとしている。

「会社の人にもらったの。食べていいよ」

 中身はチョコレートと聞いていたので甘いもの好きなふみやくんにあげることとする。まあ、ふみやくんは私が言う前に食べようとしていたんだけど。

***

 手を洗って顔を洗ったりなんだりして戻ってきたら箱の中身は半分くらいなくなっていた。食べるの早いなあ……

「美味しかった?」「ん」

 微笑んで答えるふみやくんの様子がいつもと違う気がする。なんだかいつもより目が据わっているような……。嫌な予感がして、机の上に落ちている紙を拾い上げて読む。

「あ、これ洋酒入ってる!しかも度数強いし……言ってよ〜!」

「名前」「え? ……んむ、」

 振り向いたところを捕まえられ、深く口付けられる。ふみやくんはどうやら洋酒チョコを口に含んでいたようで、噛み砕かれたそれが口移しで流し込まれる。とろっとした甘いチョコレートと舌を焼くような強めのアルコール、そして間近に感じるふみやくんの匂いと熱が頭をくらくらさせていく。離れようともがこうとしても、後頭部と背中が腕でしっかりホールドされていて身動きができない。そのまま舌でゆっくりとアルコールに焼けて更に弱くなった敏感なところをなぞられ、顔に熱が集まっていくのを感じる。びく、と肩が揺れて目尻に生理的な涙が溜まってきたところで、ちゅ、と唇が離され、荒く息を吐きながらぼんやりとふみやくんを見つめてしまう。

「チョコレート、媚薬になるってよく聞くけど。どう?」

 どうもこうも。それどころではなかった。

「わ、わかんない……」「じゃあもう一回試すか」「ひっ、そ、そんな、んっ!」

 律儀に同じことを繰り返され、ようやく離された頃には身体はへろへろになっていた。支えを失った身体がぺたんと座り込む。

「ふ、ふみやくん……!」

「ごちそうさま」

 ぺろ、と舌をなめてふみやくんはご機嫌な様子だ。

「も、もうお菓子あげないよ……!」

「……ははっ」

 見上げながら、苦し紛れに口をついた制裁もあまり効き目はないらしく。


「じゃあ代わりに名前食べたい」

 ゆっくり私の前にしゃがみこむと、私の頬に手を添えそんなことを言ってのけた。

「俺、毎日がいいけど。名前は?」

 耳元で囁かれぞわぞわする。頭が追いつかない。毎日?私を?何?


「ていうかこれ、貰い物だろ。誰から?」

 いつの間に手にとったのか、ほぼ空の箱をかざして聞いてくるふみやくん。なんだか尋問されているようでドキドキする。

「あ……取引先の、」「ふーん。男だろ」「え、なんで分かったの?」「秘密」「うう」

 ほら、立てよ、と手を差し出されるも、「む、無理……腰が抜けちゃって」立とうとしても力がうまく入らない。

「そういうのって本当にあるんだ」

 興味深そうに見つめてくるふみやくん。膝をついて腕を差し込まれ持ち上げられる。どこへ向かうんだろうと思っていたらまた軽く口付けられ動揺する。そのままゆっくりと歩き出し、あれ、これふみやくんの部屋に向かわれてない?

「ふみやくん、ちょっと」

「ん」

「これ、向かってるのふみやくんの部屋だよね?」

「……まぁまぁまぁ」

「まぁまぁじゃないよ! リビングに帰して〜!」


221119 いちゃいちゃした 知らない人からの名前さんに対する下心を見抜いているふみやくん。飲み会の話との間にもう一本お話が挟まる予定です。