ガムの話
「じゃーん、なんだこれ」
鞄から”それ”を取り出すと、ふみやくんに見せるように手に持った。
「……ガムって書いてある」「そうそう、昔からあるガムだよ。食べたことある?」
箱の中に丸いガムが四つ入ってるの、と言いながら箱を開けてガムを取り出す。辺りに人工的な甘い匂いが広がった。
「はい、はんぶんこ」
ちょん、と乗せるとふみやくんの手のひらの中でころころ、と転がっていった。ふみやくんは暫く手のひらの上を眺めていたけれど、一つ口に含んで噛み始める。
「甘いな」「それがいいんだな~」
言いつつ、二つ一緒に口に入れる。習うようにふみやくんももう一つを口に放り込んだ。
しばし無言の時間が流れる。
「風船ガムだから膨らませられるよ」
ぷう、と控えめに膨らませる。膨らんで、膜が薄くなったところから穴が開いてしぼんでいった。
舌を使ってガムを口の中に仕舞いながらふみやくんの方を見ると、じっと私のことを見ているようだった。
「……」「どうしたの?」「別に」
そう言いながらもやはり私のことをじっと見ている。どうしたんだろう?
軽く1、2回膨らませたところで「あまり膨らまないな」と残骸を同じように口内に仕舞いなおしながらふみやくんが言う。
「量少ないからかな。いっぱい食べると面白いよ。子供のころは贅沢だったけど大人の今ならできるかも」
「ボトルガム、一気に食うとうまいよな」
「あ、そうそう、それ! そんな感じ」
「からいガム、名前食べられる?」
「あ、目覚ましに噛んだりするやつ? ちょっと苦手かも……ふみやくんは?」
と、その日はガム談議で盛り上がったのだった。
あの日一緒に食べたガムがふみやくんの携帯おやつのレパートリーに追加されているらしいという話を天彦さんから聞いた。かわいいことするなあ。にやにやしているところを天彦さんに微笑ましい目で見守られたのだった。
221104 おやつ持ち歩いてるとかわいい。ジャケットのポッケから出してほしい 途中のふみやくんの沈黙しているところでふみやくんは名前の舌使いが何かエロイな……と思っています。